2010.11.19
ラスト・エッセイ
ラスト・エッセイ 〜〜 4年/マネージャー/治 正人 〜〜
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昨日で神宮大会も終わり、本当に引退を迎えました。
最終戦となった法政大学戦からはや1ヶ月。
このラストエッセイでは、知られざる(?)最終戦の秘話を綴りたいと思います。
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「ルージング・ボール 〜 Losing Ball 〜」
2年秋から主戦投手となり、38試合に登板し通算で0勝23敗。
この4年間で「ウィニング・ボール」を手にすることが叶わなかった投手がいました。
彼の名は、前田善博(まえだ・よしひろ)。
神奈川県の栄光学園高校から、1年の浪人生活を経て入部。
身体は小柄ながらも運動神経は抜群。1年生の時は守備センスを買われて、
秋にはベンチ入り。三塁・遊撃手のスタメンで出場した試合もあります。
2年生の春はケガに見舞われ1シーズンを棒に振りましたが、
秋からはいよいよ投手として本格的に試合に出場。
勝利目前の惜しい試合も多々ありましたが、
序盤から試合を決せられた試合も多々ありました。
ラストシーズンとなった今年は主将に就任。
他人に厳しく、自分にも厳しい彼には適任という声もある一方で、
「主将でエース」という重責を心配する声も。
春の宮崎合宿では態度の悪い部員を東京に帰したり、
怠惰な私生活を送る部員を退寮させたこともあります。
まさに彼の為人を表したエピソード。
今秋には1年生の鈴木投手の台頭もあり、
2回戦の先発を任されることが多くなりました。
10/23(土)、24(日)、最終戦となる法政大学戦。
最終戦を前にして彼は首脳陣に直訴。
「1回戦に先発させてくれ!」
1回戦の先発は叶うも、悲願の初勝利は叶わず。
5回を投げて5失点。勝利の女神は微笑みませんでした。
「これがラスト登板となってしまうのか?」
「こんな終わり方ってありか?」
しかし、そんな彼にリベンジのチャンスが訪れます。
続いて日曜日に行われた2回戦。
今まで好投を続けてきた鈴木も、
この日は1死を取るのが精一杯で初回に大量失点。
前日に登板した前田が、なんと初回からリリーフに入ります。
以降は、連投の疲れが見えるも気迫の投球で
8回2/3を投げて被安打4、自責点1の好投。
勝ち投手と言っても良い程の投球内容でしたが、試合は 2-11と大敗。
4年間を通じて勝利の女神が彼に微笑むことはありませんでした。
試合の終わりを、4年間の終わりを告げるサイレンが無情にも鳴り響く。
相手校・審判への挨拶が終わり、応援席へ挨拶に向かおうとするその時、
鈴木球審から粋な計らいがありました。
鈴木球審はボール袋から1つ試合球を取り出し、涙ぐむ前田にプレゼント。
それはウィニング・ボールならぬ「ルージング・ボール」でした。
試合終了後の取材では目に涙を浮かべながら記者団に語ります。
「神宮のマウンドは楽しかった。マウンドからの景色を忘れないようにしたい。」
——4年間で0勝23敗。
ウィニング・ボールこそ手にすることは叶いませんでしたが、
最後の最後で球審から渡されたルージング・ボール。
それはウィニング・ボールにも勝る価値のあるものだったのではないでしょうか。
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僕がブログを書くのもこれが最後。
次からは3年生以下、新チームの面々が執筆します。
今まで拙稿に温かくお付き合いいただき本当にありがとうございました。
今後とも東京大学野球部、並びに東京六大学野球連盟をよろしくお願い致します!!